短編:県道33号線

帰りを急ぐタクシー達が我々の前を通り過ぎていく

「ねぇ、もう歩いて帰ろう」

彼女は僕の袖を掴みそう呟く。

まだ少し雨が残る県道33号線。

残暑を纏って体を通り抜ける風も悪くはない夜だ。

萬代橋を渡って川沿いを歩けば少し寒さも感じる。

「今年は花火見れなかったね」

彼女は呟きながら萬代橋から信濃川を眺めていた。

お互い仕事にも慣れて業務に追われる日々。

週末はこうして忙しさを潜り抜けて会っていた。

花火大会は毎年平日に行われる。

今年は花火を見に行こうと僕が提案したが、花火当日に僕が仕事でミスをして残業になった。

花火はもちろん見に行けずに終わってしまった。

僕はそんな彼女の呟きから、彼女の心情を読み解こうと必死だ。

「ごめん」

僕は自然と言葉を発していた。

「何が?何に対して謝っているかわからないところ、変なこと気にして謝るところがあなたの悪い癖」

彼女は淡々と言う。

「花火さ。今年、見に行こうって誘ったのにドタキャンしたじゃん」

何でだろうか、もう1ヵ月も前の事をまた謝ってしまう。

「今さらいいのに。前の出来事を振り返して謝るところも悪い癖」

「ごめん」

「すぐ謝る」

萬代橋を渡って川沿いの道へと歩みを進めようとした最中。

「あっコンビニ寄っていい?」

緑と白と橙色の3本線は我々に安心感を与えてくれた。

彼女はトイレに向かって一直線に足を進めた。

僕は彼女がトイレから出るまでに、寒さ対策として肉まんでも買おうかとレジへ向かう。

「あ、花火。」

レジの対面の棚に手持ち花火が叩き売りされている。

「お待たせ。え、何それ?」

「花火だよ。これで夏のリベンジしよう」

コンビニを出てすぐ目の前、川沿いの土手にて花火をする算段をつけ店内を後にした。

「火、俺のライター使って」

花火に火をつけようとするが引火しない。

「あれ?これも?」

ほとんどの花火に火が点かない。

火薬が時化ているのだ。

「ごめん」

「ほらね、何に対して謝っているかわからない」